那覇地方裁判所 昭和63年(わ)391号 判決 1989年11月09日
本店所在地
沖縄県浦添市字屋富祖三七二番地
有限会社丸真産業
(右代表者代表取締役 當眞嗣吉)
本籍
沖縄県宜野湾市字安仁屋一二五番地
住居
沖縄県浦添市字屋富祖三八二番地の一
会社役員
當眞嗣吉
昭和一四年一〇月四日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官加藤昭出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人有限会社丸真産業を罰金一億二〇〇〇万円に、被告人當眞嗣吉を懲役二年にそれぞれ処する。
被告人當眞嗣吉に対し、この裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人有限会社丸真産業(昭和五一年四月一六日設立登記、資本の総額四一二五万円、以下「被告会社」という。)は、沖縄県浦添市字屋富祖三七二番地(昭和六二年一一月一日から同六三年一一月二〇日までは同市字屋富祖三七五番地)に本店を置き、同市内及び同県那覇市内などにおいてスロットマシン等の遊技場を経営するなどしているものであり、被告人當眞嗣吉は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人當眞嗣吉は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外して仮名又は借名の簿外預金をするなどの方法により所得を秘匿したうえ、
一 昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五億六四六九万七一一九円であったにもかかわらず、同年五月三一日、沖縄県浦添市字宮城六九七の七番地所在の北那覇税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が二八一八万二四〇二円であり、これに対する法人税額が四五五万六二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二億四〇三一万四五〇〇円と右申告税額との差額二億三五七五万八三〇〇円を免れ
二 昭和六〇年四月一日から同六一年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億四五九六万二八五〇円であったにもかかわらず、法定の納期限の徒過後である同年六月二日、前記北那覇税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が零であり、これに対する法人税額がない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億四八一五万八九〇〇円を免れ
三 昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億八一八〇万七九八七円であったにもかかわらず、同年六月一日、前記北那覇税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が二億五三一〇万三三九三円であり、これに対する法人税額が九四五七万三九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億五〇二六万〇一〇〇円と右申告税額との差額五五六八万六二〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
一 被告人當眞嗣吉の当公判廷における供述
一 被告人當眞嗣吉の検察官に対する供述調書五通
一 當眞恵美子及び松本佐和子の検察官に対する各供述調書
一 比嘉寛榮、森山保、奥浜真正、久手堅政雄、豊島富忠及び田場典光の検察官事務取扱検察事務官に対する各供述調書
一 山城泰哲、我那覇勝、与那覇恵美子、運天清、金城盛幸、上地安浩(二通)、翁長林太郎、羽地国雄、金城常雄、名嘉輝政(二通)、下里義弘、下地忠廣、神里昂明、玉城優、嘉手納成達、金城敏雄、玉城洋及び銘苅徳人の検察事務官に対する各供述調書
一 収税官吏の大城精徳に対する質問てん末書
一 検察官加藤昭及び検察事務官上原哲作成の各捜査報告書
一 収税官吏作成の「売上調査書」、「売上(その他の所得)調査書」、「受取利息調査書」、「有価証券売却益調査書」、「賃借料調査書」、「支払源泉税調査書」、「欠損金の当期控除額調査書」、「欠損金額調査書」、「事業税認定額調査書」、「事務用品費調査書」、「控除所得税額調査書」、「保険料調査書」及び「寄付金損金不算入額調査書」と題する各書面
一 収税官吏作成の臨検てん末書
一 北那覇税務署長作成の証拠品提出書
一 登記官仲松賢二作成の登記簿謄本
一 法人税確定申告書三通(那覇地方裁判所平成元年押題一八号の1、2、3)
(法令の適用)
被告人當眞嗣吉の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、それぞれにつき所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予することとする。
被告会社に対しては、法人税法一六四条一項により被告人當眞嗣吉の前記同法一五九条一項の違反行為につきいずれも同条項の罰金刑に処すべきところ、それぞれにつき情状により同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により右各罰金の合算額の範囲内で、被告会社を罰金一億二〇〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は、スロットマシン等の遊技店などを経営する被告会社が、その代表取締役である被告人當眞の不正行為により三事業年度分で合計一〇億円余の所得を秘匿し、合計四億三九〇〇万円余の法人税を免れた事案であるが、そのほ脱額は右のとおり巨額であって、そのほ脱率は平均でも八一・六パーセントの高率にのぼり、犯行の手段、態様も、長期間にわたりほぼ毎日、多額の金員(特に多いときには毎日一〇〇万円以上)を売上から除外したうえ、簿外で開設した多数の仮名又は借名の預金口座に入金して貯蓄するとともに、虚偽の売上票を税理士に渡して確定申告手続きを依頼するなどして所得を隠蔽したというものであり、大胆かつ巧妙で極めて悪質といわなければならない。更に、犯行の動機についても、被告人當眞は、不況時に備え、あるいは同業者との競争に勝ち抜くなどのために隠し財産を作っておこうと考えた旨供述するが、そのような事情があるからといって支払うべき税金を免れることが許されるべきものではなく、それをもって格別斟酌すべきものとはいえない。その他、被告会社の簿外預金額の推移をみると、被告人當眞は本件以前にも本件同様の不正行為を行っていたことが窺われることなどをも併せ考えると、その犯情は悪質といわなければならない。
他方、被告人當眞は、本件が発覚した後は捜査に協力し、公判廷においても本件起訴事実をすべて認め、改悛の情を示していること、被告会社は、本件ほ脱にかかる各事業年度の修正申告をし、本税、重加算税、延滞税及び地方税総額九億五〇〇〇万円余を納付済みであること、被告会社においては今後本件のような犯行を重ねないために経理担当職員を置き、改善の努力を示していること、被告人當眞は、前科前歴がなく、現在高血圧症と糖尿病で通院治療中であること、被告会社には約一五〇名の従業員がいるが、被告会社は被告人當眞のいわゆるワンマン会社で、その営業には同被告人の存在が重要であることなどの事情もあり、その他本件記録により認められる諸事情をも総合すると、被告人當眞の懲役刑についてはその執行を猶予することとして、同被告人及び被告会社を主文の刑に処するのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西江幸和 裁判官 松本芳希 裁判官 本多知成)